『田園の詩』NO.46 「国東の仏さま」 (1996.5.28)


 地方新聞の見出しに『ー大当たりー県警ポスター』とありました。大分県警が、石仏の
五百羅漢(らかん)の表情豊かな顔写真を20体並べて警察官募集のポスターを作り、
全国の大学の就職窓口に掲示したところ、各地の学生から「羅漢さまを見たいが、どこに
行けばいいのか?」という問い合わせが沢山来ているとのことです。

 ポスターの思わぬ反響に、県警は、「観光案内に一役買う結果になってしまった」と苦笑
しつつも、「デザインが受けたことにより、県警のイメージアップにもかなり効果があった」
と喜んでいるようです。

 県内には、国宝に指定された端正な姿の臼杵石仏もありますが、私の住む国東(くに
さき)地方の沢山の仏さまは、いずれも親しみやすくやさしい顔をしています。

 特に羅漢さまの石仏は多く、五百とか十六とかまとめて一所に安置されているので、
その前に立つと、表情豊かな顔に圧倒されます。笑った顔、泣いた顔、怒った顔、悲し
そうな顔、すました顔、とぼけた顔…、喜怒哀楽のありとあらゆる顔がそこにあります。


      
    隣の市、宇佐市の『東光寺・五百羅漢』です。そんなに古い時代のものではありません。
    1863年頃から作られたそうです。五百体並んだ前に立つと、私が見ているというより、
    見られている気分になります。どれか一体は誰かに(自分にも)似ているのがあると
    いわれています。  (08.11.1写)



 ところで≪羅漢≫とは略称で、正式には≪阿羅漢≫といい、一切の煩悩を断滅して、
なすべきことを完成し最高の境地に至った人のことです。

 しかし、国東の羅漢さまには悟りすました顔は見当たりません。楽しい時には笑い、
悲しい時には泣く、煩悩丸出しの隠すものの何もない素直な顔ばかりです。

 ですから、私は、国東の仏さま(石仏)に出会う度に、一緒に話がしたい気持ちに
なります。普通、仏さまにお参りすると、何か願い事をする人が多いようですが、そんな
心を起させないところに、国東の仏さまの良さがあると思います。

 仏さまだって、人間の都合の良い事ばかり頼まれるより、一緒に話をする事の方が
楽しいに違いありません。どうぞ、仏さまとの楽しい語り合いを求めて、国東にお越し
下さい。

 私も、県警に負けぬよう、観光案内を一役買うことにしました。 (住職・筆工)

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